研究概要 Research

職域では、平成23年に厚生労働省通達「職域におけるウイルス性肝炎対策に関する協力の要請」により、肝炎ウイルス検査の受診勧奨に関し必要な便宜を図ることと、肝炎治療のための就業上の配慮を事業主に要請している。平成23、24年度に実施した「職域における慢性ウイルス性肝炎患者の実態調査とそれに基づく望ましい配慮の在り方に関する研究」では、事業者を対象とした調査から、通達の周知度は約11%と低く、職域における肝炎検査の実施率は約16%、慢性ウイルス性肝炎(以下肝炎)患者に対して就業上の配慮があると回答した事業者は約24%であった。中小の事業者ではそれぞれさらに低い割合にとどまり、事業所内での相談体制がないことから就労を優先し治療が受けられていない事例があった。一方、産業医を対象とした調査からは、産業医が積極的に介入して就業上の措置を事業者に助言することで肝炎治療が継続された事例が多く認められた。最近の新しい肝炎治療により病態の改善や治癒で高い有効性が示され、働きながら継続して治療を受けられるような職域での配慮が一層重要となっている。

本研究では、肝炎患者労働者が就労と治療について相談できる窓口をこれまでの事業所内だけでなく、事業所外にも拡大するため、産業医からの配慮の事例に加えて、肝疾患相談センター、各機関の肝疾患コーディネータから就労支援の相談事例を収集、整理する。これらの事例を共有することが就労支援の機会増加につながる。以下を検討することで職域における肝炎患者に対する望ましい配慮と就労支援の在り方を提言する。

  1. 労働者、事業者、かかりつけ医、専門医間の連携用連絡ノートの運用と、肝疾患コーディネータが就労環境を評価するためのアセスメントシートの運用
  2. 肝疾患相談センター、肝疾患コーディネータでの就労に関する相談の実態と事例収集
  3. 病病、病診連携における就労と治療の両立支援体制の構築
  4. 産業医による就業上の措置の事例収集と、望ましい配慮に関するエビデンスの構築
  5. 肝疾患相談センター、産業保健推進センター、労働基準協会、保健所等の地域の機関が連携した肝炎ウイルス検査の勧奨と就労支援への啓発活動

本研究の成果から、労働者、会社、産業医、専門医・肝疾患相談センターが一体となった職域における連携モデル(図1)と、地域における中小事業者での肝炎対策の啓発のために、肝疾患相談センター、産業保健推進センター、労働基準協会、保健所、商工会議所等の複数の関連機関を包括したの構築を目指す。

図1. 職域における連携モデル
図1. 職域における連携モデル
図2. 地域・職域連携モデル
図2. 地域・職域連携モデル